強制処分の論証 - ほのぼのと司法試験に挑戦

強制処分の論証

刑事訴訟法
10 /10 2016

 今まで、強制処分の論証は、以下のようなものを使ってきた。

【論証】
 強制処分とは、強制処分法定主義、令状主義という厳格な手続に服する処分であるから、個人の意思に反し、個人の重要な権利利益を制限する処分をいう。
【論証、以上】

 しかし、H27年採点実感 9頁 によると、『各捜査が強制処分か…を検討する必要がある。…この問題は,刑事訴訟法第197条第1項ただし書の「強制の処分」の意義をどのように解するかという解釈問題であるにもかかわらず,そのことが十分意識されていない答案,そのこととも関係して,強制処分であることと令状主義とを何らの説明も加えることなく直結させ,強制処分が服する法的規律について,法定主義と令状主義とを混同しているのではないかと見られる答案などが散見された。また,強制処分のメルクマールとして,「権利・利益の制約」に着目するとすればそれはなぜか,なぜ「重要な」権利・利益に限られるのか,なぜ「身体,住居,財産等」という判例の文言を「重要な権利・利益」と等置できるのか等の点について,十分な理由付けに欠ける答案が少なくなかった。』 と示されている。

 とすると、(1)解釈問題であること、(2)強制処分と令状主義の直結させること、(3)なぜ「身体,住居,財産等」という判例の文言を「重要な権利・利益」と等置できるのかということ、以上の3点について減点されてしまう論証を使っていたことになる。

 少なくとも、(3)については、現に刑事訴訟法が定めている強制処分と同程度に厳格な要件・手続を定めて保護するに値するだけの重要な権利利益と論証することによって、これを克服することができると考えている。
 しかし、これでは、かなり論証が長くなってしまう…。

 そこで、論証を刷新することにした。最判昭和51年3月16日刑集第30巻2号187頁 の定義を使ったものである。

【論証案】

 「強制処分」(刑事訴訟法197条1項但書)は、「特別の定のある場合」のみ、行うことができ(強制処分法定主義、同但書)、現に法定された手続(憲法33、35条、令状主義、現行犯逮捕等)に服する。もっとも、何が強制処分にあたるのかを法が明確にしていないため、解釈によって明らかにする必要がある。

 上記に示した厳格な手続に服することに鑑みると、強制処分とは、個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加える処分をいうと解すべきである。

【論証案、以上】

 まだまだ改善の余地があるかもしれませんが、一応これで行きたいと思います。何かあればコメントで教えていただければうれしいです。

【改善案、規範定立部分のみを修正する案である。】

 強制処分法定主義の意義は、捜査上の必要性がどれだけ高いとしても、抽象的な捜査根拠である刑事訴訟法197条1項本文(任意捜査)によって行うことができない類型の捜査について、強制処分として具体的な根拠が必要になることを示すことである。そして、被侵害利益を個人が処分することができること、憲法33,35条に規定される被侵害利益に匹敵する捜査については具体的な根拠を要するべき蓋然性があることからして、強制処分とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加える処分をいうと解すべきである。

【改善案おわり】


 最判平成29年3月15日によって、GPS捜査が強制処分である旨の判断がなされました。これを受けて改善案を含めて論証を変更する必要がある現在考慮中です。

 
 改善案について2017年2月16日に追記を行い、最判平成29年3月15日を受けて同判決が存在し、論証の変更が必要になるかもしれない旨の追記を行いました。







 コメントの注意点、反映等については、こちら から。

コメント

非公開コメント

悩ましいし、難しい。

う~ん、この論証は、確かに悩ましいですね。
ただ、判例の文言や予備校等の文言だけから、「正解である論証」を導こうとするのは危険です。
失礼ながら、上記の論証を自分の頭で十分考えたのですか?という突っ込みをしたくなりました。
めちゃくちゃに重要な論証です。
この論証だけは、効率的な観点ではなく、誰と議論しても打ち負かす自信があるという程度までに徹底的に考え、理解に達しておくべきです。
刑訴で、ここの論点だけは、絶対に「一応これで」でスルーしてはいけません。
失礼ながら、私は、この論証こそ、採点実感の指摘のある論証そのものだと思います。

例えば、
この論証では、捜査官が被疑者等を公道上で無断で写真を撮る捜査活動は、強制処分になってしまいませんか?

「無断」=意思の無視でしょうし、「意思の制圧」の要件はクリアで、警察に写真を無断で撮られない権利は憲法13条の保障が及ぶ「憲法上の重要な権利」で、「等」に該当しますよね。
でも、判例も受験通説も任意処分としますよね。
この事例に破たんしてしまう以上、この論証が事前に用意すべきものではないといえると思います。
まずは、この事例を強制処分ではないという結論に至る論理を自分の頭で考えてみてください。宅配荷物のX線撮影を強制処分とした判例も踏まえてください。
批判した者として、一言だけ。
なぜ「身体,住居,財産等」という判例の文言という判例の文言を「重要な権利・利益」と等置できるのか。⇒「身体」は、文言はないものの、憲法31条・35条で、「住居」は、憲法35条が明示、「財産」は、憲法35条の「書類・所持品」で例示、かつ、憲法29条で。「等」は、事例の権利やプライバシーなどの憲法13条の保障が及ぶ権利等を指していると考えられますね。
令状主義は憲法35条。
憲法35条は、どのような場合に令状が必要と言っていますか?
単に、意思を制圧し、憲法上の権利を制約する場合は、令状は必要というようなことを言っていますか?

ぜひ、どこかの論証をコピーするのではなく、強制処分とした判例・裁判例に共通するのは何か、ぜひ自分で考えてみてください。必ず考えれば、理解に達します。この理解は、任意処分の限界の理解にもつながります。
私は、判例が「意思を制圧して、憲法上の重要な権利を制約するなら」⇒「強制処分」というパターン公式思考をしているわけではないと考えています。
おそらく、あなた自身も「どこかおかしいぞ」との疑問を持っているので、「一応」と表現しているのだと思います。そうなんです。その疑問の気持ちこそ、実力がある証拠です。何ら疑問さえ持たずに、上記のような判例の論証を暗記し、試験でそのままに吐き出す人が多いのですから。
上から目線ですみません。
改訂版論証(理解?)を期待しています!

Re: 悩ましいし、難しい。


 コメントありがとうございます。
 ブログをはじめた理由の一つには、私の考えについて、他の方からの意見を聞きたいと思ったためであり、貴重な意見を頂けることに感謝いたします。
 今後も当ブログに立ち寄っていただけると嬉しいです。

 まず、明日(11日)に、平成27年司法試験 刑事訴訟法 練習答案 捜査編 という記事を公開します。(なお、私の不手際で既に一部の方に閲覧可能になっていたかもしれませんが、一応明日公開予定です。1日1記事を目標にブログ運営を行っていくつもりであり、忙しい日にも記事が投稿できるようにするために、記事投稿の予約を行う運営についてもご理解頂けるとうれしいです。)

 同記事では、強制処分の論証を使っていますので、その記事についてもご覧になって頂けると嬉しいです。


 本題です。
【1】論証の自作性について
 論証は、自作のものです。とはいえ、一部雰囲気が似ているものがあるとは思います。たとえば、「服する」という表現がこれにあたります。(服するという表現を真似たとしてもこれが著作権法に反することはないと考えています。)
 しかしながら、論証は、その性質上,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないものですので、予備校の論証と似てしまうことは致し方ないといえます。(なお、当ブログの論証の著作権性を否定する趣旨ではありません。)

 他の論証案(ネットに載っているものを指します。)と比較して(1)解釈問題であること、(2)強制処分と令状主義の直結させることについて、得点になるように論証を作成したものであり、H27採点実感を受けての論証となっていることが、創作的であり、他にない論証だと思っています。

 ただ、全予備校の論証案を見ているわけではありません。


【2】質問1に対する回答
 「この論証では、捜査官が被疑者等を公道上で無断で写真を撮る捜査活動は、強制処分になってしまいませんか? 」

 それは絶対にあり得ません。この論証の要件は、「個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加える」(こと)であり、この要件部分は完全に判例を引用していますから、この要件をあてはめて、上記質問の事例で強制処分になることは、最高裁が矛盾する判決を出していることになりますからね。

 実質的に考えても、プライバシーの権利は、濃淡がありますから、つまり、路上でデモ行進をするときと、家にいるときでプライバシーの保護の必要性は変わります。

・公道上で無断で写真を撮ることは、誰かに見られることが想定される場所であるから、プライバシーの保護の必要性が低い。
・宅配荷物のX線撮影は、通信の秘密(憲法21条2項後段)によって保護されたものを、見る行為であるから、プライバシーの保護の必要性が極めて高い。

 こんな感じです。実際採点実感に同旨と考えています。


【3】『判例が「意思を制圧して、憲法上の重要な権利を制約するなら」⇒「強制処分」というパターン公式思考』をしているか。

 判例が、判断基準を定めた以上は、「意思を制圧して、身体,住居,財産等に制約を加える(処分)」⇒「強制処分」という思考をします。そうでなければ、判断基準を定める必要性がありません。


【4】「一応」の理由
 文献に全てあたっているわけではないこと、また、(2)強制処分と令状主義の直結させることについて、これで採点者が納得していただけるのかが、疑問であるために、一応としています。

 いいかえれば、「現に法定された手続」という文言によって、(2)が満たされているのかが、疑問であり「一応」という表現になっています。

【5】できれば、

 コメント投稿者の論述を見せていただけると嬉しいな。と思います。


 今度とも、当ブログをよろしくおねがいします。返信のコメントをいただけると嬉しいです。

なるほど。

私のつたないコメントを歓迎いただいたので、あえて再コメントをさせていただきます。
ブログ上で、論点の理解をやりとりするのは、匿名とはいえ、しっかり考えるので、理解が深まるし、記憶の定着にも有効だと思います。

論証の自作性、すばらしい発想ですね。失礼しました。
刑訴は、人権保護の立場から「学説は判例に批判的であるべき」と考える学者が多い科目です。
そのため、基本書の規範と判例の規範の乖離が大きく、基本書の規範をそのまま予備試験・本試験で使うと危険な場合があります。

さて、本題です。
提示した事例について、あなたの意見は、「プライバシーの保護の必要性が低い」から、強制処分ではない、これに対して、x線の事例では、「保護の必要性が高い」から強制処分である、ということですね。
私も、結論はこのとおりだと思います。
でも、上記論証に「保護の必要性の高い・低い」で強制処分であるかどうか区別するという要件は読み取れますか?
規範とあてはめでズレが生じてしまっていませんか?
上記論証にこの「保護の必要性の高低」の判断基準があるとは思えません。
書いた当人が読み込めると主張されても、すくなくとも読み手である私には理解できません。

そこで、提案です。
上記論証に「保護の必要性の高低」のあなたの判断基準を追記してみたらいいのではないでしょうか?
私の提示した事例に対しても、あなたが回答した妥当な結論をスムーズに出せるし、私の批判を論破できる論証になるのではないでしょうか?

確かに、最判51には「制約を加えて」との文言はありますが、あくまで「・・加えて、」です。そして、「意思を制圧し」は、どこの文言にかかるのかも考えどころですね。
最判51は、上記論証のように強制処分の範囲を広くとらえた規範を述べたものではありません。
もちろん、上記論証に近い学説もあります。
多数説は、「重要な法益を侵害する処分」としていると思います。
ちなみに「制約」と「侵害」の違いは大きいですよ。

私の論証は紹介しませんが、少なくとも「制約する処分」という文言はありません。また、論証は基本形はありますが、事案に応じて、その場で修正すればいいんです。なにせ自作していいんですから。

論証を自作するに際に、やはり最判をベースにするが基本ですね。

最判51⇒[規範]強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。
[あてはめ]これを本件についてみると、加藤巡査の前記行為は、呼気検査に応じるよう被告人を説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないというのであるから、これをもつて性質上当然に逮捕その他の強制手段にあたるものと判断することはできない。

下線部のところを参考にして考えてみてください。
このヒントで、あなたの実力なら、すぐにできるはずです。

あと、本件では最後のコメントです。
実は、規範の理由づけも賛成できません。
採点実感に応えるとのことですが、疑問のある内容です。

令状主義は憲法33条・35条の要請。その趣旨は司法コントロール。強制処分法定主義は、197条1項ただし書。その趣旨は立法コントロール。⇒強制処分が令状主義に服するという条文の根拠はない。にもかかわらず、多くの受験生がそれを当然ごとく書いている。なぜ、強制処分に令状主義の適用があるのか一言触れてほしいというのが採点実感の言いたいことだと思います。
私には、あなたの規範の理由づけの部分も、採点実感が問題として指摘した論述そのものだと思います。

刑訴で最も重要な論点で、お互いの理解を深められたらいいなぁと願っています。












Re: なるほど。


 再度のコメントありがとうございます。

 早速ですが、本題に入らせていただきます。

【1】「保護の必要性の高低」について
 「保護の必要性の高低」について、判断基準に組み込むことは、検討する価値があると思います。論文の紙面、筆記時間の関係とも照らし合わせて、詳しく検討してみます。【4】でもこれについて検討します。

【2】規範の理由づけ(強制処分法定主義及び令状主義の問題)
 これについては、深く考えてみます。(既に、深く考えてはいるのですが、さらに、という意)ただ、司法試験として、ここまで一つの論点に時間をかけていいのかという点もあります。論証作成に関する戦略的撤退という観点から、「一応」の論証の妥協点-合格に値するだけの論証-があると考えていますので、別の論証が一通り完成するまでは、ここの問題は非常に難しい(特に表現の難しさ)ので、塩漬けにしようかなと思っています。

 『令状主義は憲法33条・35条の要請。その趣旨は司法コントロール。強制処分法定主義は、197条1項ただし書。その趣旨は立法コントロール。⇒強制処分が令状主義に服するという条文の根拠はない。にもかかわらず、多くの受験生がそれを当然ごとく書いている。なぜ、強制処分に令状主義の適用があるのか一言触れてほしいというのが採点実感の言いたいことだと思います。 』
 について、参考にさせていただきます。しかし、それをどのように論証に表現するのか、もしできればご教授していただきたいです。

【3】
 いずれにいたしましても、ブログの運営は、ほのぼの行っていきたいと思っていますので、新たな論証は、気長にお待ち頂けると助かります。

【4】
 S51最決の下線部分の指摘は、「程度」という部分についての類似性を示しているものと思われますが、同最決において、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであつて」までが、強制処分についての判示、「右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。 」が、任意処分についての判示であると考えるのが、素直であり、学説の理解でしょう。

 とすると、一般論として(プライバシーは、特別の意)、強制処分の要件において、「程度」という文言を入れる必要性はないように感じます。(一応この記事は、プライバシーの強制処分性についての記事ではありません。強制処分一般の論述の提供しているものです。)

 さらにいえば、判例は、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加え」るという「程度」という文言を使わない要件を使い、「その程度もさほど強いものではないというのであるから」と「程度」問題についてあてはめで考察を行っています。権威ある最高裁が、このような立場であり、また、採点実感においても特段この点について、触れていないのですから、【1】に示したように、「程度」について規範部分に組み入れることに意味がないとは思いませんが、同決定は、むしろ私が示した論証で事足りる(「程度」を組み入れる必要はない。)ということを強める一つの根拠と考えるべきではないかと思います。

 【1】に示しましたが、プライバシーの問題で、これを入れる価値があるのかは、現在検討中です。
 
【5】
>確かに、最判51には「制約を加えて」との文言はありますが、あくまで「・・加えて、」です。そして、「意思を制圧し」は、どこの文言にかかるのかも考えどころですね。
>最判51は、上記論証のように強制処分の範囲を広くとらえた規範を述べたものではありません。
>もちろん、上記論証に近い学説もあります。
>多数説は、「重要な法益を侵害する処分」としていると思います。
>ちなみに「制約」と「侵害」の違いは大きいですよ。

 については、若干司法試験の域を超えているように感じます。 採点実感からいって、判例の規範をそのまま使えば事足りるでしょう。(採点実感からいってそこまで求められていない。)

 また、「どこの文言にかかるのかも考えどころですね」については、池田前田刑事訴訟法講義を想起するものですが、判例百選にあるように、2つの要件を考慮すれば足りると考えています。これについては、判例百選を参照をお願いします。



 重ねて、コメントの投稿ありがとうございました。特に、【1】【2】の部分については、鋭い指摘で、とても参考になります。今度とも、当ブログをよろしくお願いします。


水刀

2017年4月、LSに入学しました。