2018年03月 - ほのぼのと司法試験に挑戦

違法な業務命令を理由とする損害賠償請求が可能か

時事ネタ
03 /13 2018

 社会において上司から法律上違法な行為を行うよう命令が下ることは、あってはならないことです。しかしながら、往々にしてこのようなことが起こってしまっています。最近(平成30年3月12日)においても、財務省が文書の偽造を指示したのではないかという疑惑や、土地売買の不当な割引の指示を行ったのではないかという疑惑―いわゆる森友問題―があります。もう少し時間を遡ると、食品の産地偽造・賞味期限の偽造などを恒常的に行っていた企業がニュースを賑わせたことがありましたし、リコールを避けようと重要不具合情報の書かれている書類を隠す練習を従業員に命じていた企業もありました。
 では、このような違法な業務命令を下された労働者(従業員)が、人格権を損なったとして損害賠償請求をすることはできるのでしょうか。

 リーディングケースとなるのは、JR東日本(本荘保線区)事件(H8.2.23)でしょう。事案は、組合のベルトを付けている労働者に対して、就業規則を根拠としてベルトを外すように指示したが、指示に従わなかったとして、就業規則の書き写し等の教育訓練を2日間行い、2日目には体調不良を訴えていたにもかかわらず、胃潰瘍の病歴の告げるまで病院に行かせるなどを認めず、結果1週間の入院をすることになったというものです。裁判所は、就業規則の全文書き写し等は、合理的な教育的意義を認めがたく、人格権を侵害するもので、裁量の逸脱濫用に当たるとして、20万円の慰謝料及び5万円の弁護士費用の支払いを命じました。

 このリーディングケースから、裁量権の逸脱濫用にあたる業務命令によって人格権を侵害することは、損害賠償請求を根拠付けることが分かります。したがって、違法な業務を指示されることによって、人格権が侵害されたのであれば、損害賠償請求が出来るという結論になりそうです。

 もっとも、このリーディングケースにおいては、1週間の入院という損害として勘定しやすい事情がある特殊性、今回の記事で問題としたい「違法な業務を指示・強要されることによる精神的損害が認められるのか」ということについて真正面から答えていない点が気になるところです。

 この点について最高裁判決がない以上憶測の域を出ませんが、個人的に結論を言わせていただくと、違法な業務命令を下された労働者(従業員)が、人格権を損なったとして損害賠償請求をすることはできるが、その額については大きな期待はできないと考えます。

 日本において、精神的損害について大きな額が認められる事は少ないので、思い通りの金額を獲得する事は容易ではないでしょう。さらにいえば、将来において鬱病を罹患するリスクなどを損害額に含むべきだと私は思いますが、これを裁判所が認めてくれるのかは疑問ですし、将来の働きづらさなどまで考えれば、この点については何らかのロジックの変化が必要なのかもしれません。実際に上記リーディングケースの事案の賠償額を見ると、個人的に少ないように感じます。

 懲罰的損害賠償の導入の可否という議論に行かずとも、将来の鬱病の罹患リスクや働きづらさ(転職に伴う賃金の減少)なども考慮に入れて損害賠償額を考えていく議論があってもいいのではないかと思います。

 この議論によって、組織の不正を告発することを容易にし、社会的に不正が生じないようにする機運を高める効果が少しでも生じてくれればうれしいです。

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水刀

2017年4月、LSに入学しました。